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EUがAIトップを目指すには - ドイツ銀行リサーチ調査

ドイツ銀行は、調査レポート「EUモニター」の中で、AI分野のグローバル競争力に関する調査結果をまとめた。そしEUに対し、アメリカや中国に大きく遅れをとらないよう厳しい警告を発した。AIのグローバル競争において、EUと加盟国は、これまで以上の対策を取る必要がある。ドイツ銀行は調査レポートで、EUがAI分野での強みを活かしながら、如何にしてAI最先端研究と応用を進めるべきか明確な提言を行った。

EUの強みとして、大学の研究と論文発表、大きな人材宝庫の存在、そして何よりも整備された法律と規制の枠組みが挙げられており、これはドイツにも、そして多数の大学とR&D機関を持つNRW州にも当てはまる。

また、EU一般データ保護規則(GDPR)にも注目したい。EUはAIに関する詳細かつ包括的な規則を制定し、世界で先駆的な取り組みを行っている。同規則により、各国不揃いであったAI規制に代わり、EU全体で統一されたフレームワークも構築されるのだ。ただし、EUが規制に拘り過ぎると、EU域内のAI企業にアメリカや中国の企業よりも厳しい規制が課せられ、かえってAI企業の開発活動を減速させてしまう危険性もある。そのため、EUは「角を矯めて牛を殺す」ことのないように、注意する必要がある。この点で賛否両論があるのが、適度な規制という観点に立った「欧州データ市場」の構築だ。欧州のユーザーデータを直接取引可能な商品として扱い、個々のユーザーがどのデータを商品化するかを決定し、さらにデータの価格を直接交渉する市場の仕組を構築することが提案されている。

一方、欧州の決定的弱点に関しては、ドイツ銀行はAI業界の資金調達を挙げている。欧州投資基金(EIF)のファンド・オブ・ファンズ「VentureEU」ではすでに4億1000万余ユーロが、またHorizon 2020プログラムでは15億余ユーロ(2018-20年)がAIに投資されている。とはいえ、EUのベンチャーキャピタルは米国と中国を大きく下回っているのが現状だ。また、2021-27年のEU予算案でも、EU投資全体におけるAIの割合が比較的小さいことが分かる(グラフ参照)。

さらにドイツ銀行は「EUモニター」の中で、ドイツとアメリカや中国を比較し、AI産業の構造的な相違があると指摘している。アメリカと中国で成功したAIスタートアップは、ネットワーク化された広範な(地理的)集積地(シリコンバレー)か、あるいは広範な保護市場(中国)で発展しているとのことだ。

欧州市場は確かに大きいが、保護政策も集積化もない。従って「EUモニター」は、アメリカや中国にこれ以上遅れを取らないために、通常余り好まれないトップダウン手法を今回は用いて、AI産業をヨーロッパの一箇所に集中させることを提言している。

今後EUは、欧州「AI・ライトハウス」を中核とする研究ネットワークを形成する計画だ。ドイツとフランスは、ヨーロッパの「AI・ライトハウス」が如何にあるべきか、またもしEU全体での計画が成立しない場合、どのように2カ国間でAI産業の集積化と強化に貢献できるかの実証に取り組み始めた。

2019年締結の独仏アーヘン条約では、フランスとドイツは、独仏AI研究革新ネットワークの設立についても合意した。日本では2018年以降、ドイツ科学・イノベーションフォーラム東京(DWIH)の活動を通じて、ドイツ、フランスおよび日本が「AI」分野で緊密な協力に取り組んでいる。

ヨーロッパの中心に位置し、ベルギーとオランダと国境を接するNRW 州は、地域AI産業とスタートアップを支援するデジタル・ハブを有し、また量子コンピューティングの分野で先駆的な役割(ユーリッヒ研究所)を果たしている。そのため、EUの「 AI・ライトハウス」に貢献する万全なる準備を整えていると言えよう。

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