Jump to Navigation Jump to search Jump to Content Jump to Footer

新たなロボットソリューションでドイツ繊維産業が再び競争力を獲得 

欧州の繊維産業に再び活気が戻ってくる。現在、ドイツや日本など高賃金国の服飾・繊維メーカーが使用する布地の大半は、生産コストの安いアジア諸国で生産されたものだ。繊維加工工程の大半はすでに機械化されているものの、生産拠点をアジアの低コスト国に移転することで欧州のファッションメーカーはメリットを得てきた。

繊維産業では、レーザー制御の裁断機やコンピュータ制御の縫製機械など、すでに多くの工程が自動化されている。しかし、衣料品製造工程の中で最も時間とコストがかかるのは機械と機械の間の布地のハンドリングであり、この工程は今でも手作業で行われている。AIやロボットの活用で製造の自動化は確かに進んでいるが、この布地ハンドリング作業は今も自動化が難しい工程だ。なぜなら、ロボットは柔らかい布を個別に正確に扱うことはできなかったからだ。そのため、手作業を必要とする繊維産業は、低賃金国、特にコストの安い東南アジアに生産を移転してきたのだ。 

NRW州アーヘン工科大学(RWTH)の繊維研究者は、この手作業は衣料品の製造時間と工場コストの夫々約80%を占めていると指摘している。しかし今、やっとこのハンドリングの工程も自動化への目処がついてきた。 

フランクフルトで開催されたテキスタイルおよびフレキシブルマテリアル加工の国際見本市「テックスプロセス」では、様々なソリューションが紹介された。ドイツのRobotextile社は、積層された布地を1枚ずつ掴んで、あらかじめ設定された計画に従って布地を配列できるロボットを展示した。この布地を掴み取って次の生産工程に送り込む作業はセル生産システムで行われる。また米国のSewbo社はこれとは異なるソリューションを提供している。それは水溶性溶液で生地を一時的に硬化させ、金属やプラスチックなどの硬い素材を扱うように、ロボットが生地を把持できるようにする方法だ。なお、生地は成形後に熱湯に浸せば元の柔らかな状態に戻る。 

このようなロボットの活用は、ヨーロッパのファッション業界に多くの利点をもたらすのは確かだ。そして繊維産業の長い伝統を誇るNRW州にとっては多くのチャンスが生まれるだろう。NRW州では繊維産業の発展にニーダーライン応用科学大学とアーヘン工科大学がパイオニア的存在として大きな役割を果たしてきた。 

欧州での生産加工の現地化で、繊維業界は生産コストを削減できるだけでなく、生産の加速化と、ファッショントレンドへのより迅速な対応が可能となる。その上、現地化は環境にも良い影響をもたらす。アジアとの往復輸送が発生しないことからCO2排出量の削減が出来、さらに輸送コストも不要だ。 一方しかし、現地化による東南アジア諸国への影響は計り知れない。繊維生産の自動化によって低賃金国の多くの雇用が脅かされるため、我々はこの点に留意する必要がある。 また、機械を使って生産を現地化しても、ヨーロッパ市場で新たに生まれる雇用はわずかに止まる見込みであり、またエネルギー価格高騰化の状況では、ロボット導入によるエネルギー消費の増大も考慮すべき点となろう。

参考資料 写真 iStock.com/andresr